握手
玄之丞の瞳が爛々と輝き出す。
二本、三本と立て続けに葉巻を咥え、もくもくと紫煙を吐き出した。タバサは玄之丞の葉巻が、まるで臭くないのに気付く。
ああ、そうかと、ほどなく合点する。
ここは仮想現実なのだ。煙草を喫っても、煙は現実のものではない。だから、厭な匂いもまったくないし、吸い込んでも平気である。
二郎は、からかうような目つきになった。
「どうするね、玄之丞さん。あんただって、興味があるんじゃないのか?」
玄之丞は用心深そうな表情になる。反り返り、両手を頭の後ろに回した。
「そりゃあ──まあ、な。【ロスト・ワールド】には、大変なお宝が眠っている、ってえ話だからな」
思わずタバサは「お宝?」と口を挟んだ。
ぎろり、と玄之丞は鋭い目付きでタバサを見る。が、すぐ笑顔になって身を乗り出し、話し掛けた。
「そうともお嬢さん。【ロスト・ワールド】には、大変な値打ちのお宝があるんだよ」
隣で座っていた知里夫が、もじもじと身動きをする。
「あくまで噂、だろう? 兄貴。うかうか、こいつらの話に乗れるのか?」
ぱん、と玄之丞は自分の膝を叩く。
「乗ってみるのも悪くはないさ! こいつは、吾輩にもチャンスかもしれん!」
知里夫は肩を竦める。
「ご勝手に! おれは知らんよ」
玄之丞は、びっくりした顔で弟を睨む。
「なんだ、お前は同行するんじゃないのか?」
知里夫は、にたにた笑いを浮かべた。
「そんなこたぁ、ねえよ。お宝どうのこうのは眉唾もんだ。でも【ロスト・ワールド】にゃ、興味がある。ここより、もっとハチャメチャな〝世界〟だって話じゃないか?」
「成る程な」と頷き、玄之丞はさっと右腕を二郎に向けた。
「吾輩、貴殿と行動を共にすることを、ここに確約するぞ!」
二郎と玄之丞は固い握手を交わす。