計画
二郎は【蒸汽帝国】での顛末を手短に話した。
玄之丞の目が、ぱっちりと見開かれた。
「なんと! つまり【ロスト・ワールド】のほうから、他の〝世界〟に接触したと言うのだな? シャドウは何を狙っている?」
二郎は顎を引き、真面目な表情になる。
「おそらく……他の〝世界〟を自分の〝世界〟に融合させるつもりだろう。
手始めに【蒸汽帝国】の〝世界〟律を変化させ【ロスト・ワールド】化させるつもりだ。
シャドウは【パンドラ】の初期バージョンを握っている。一旦〝世界〟を取り込んでしまえば、それきり【蒸汽帝国】は【ロスト・ワールド】の一部になってしまう。
最終的には【大中央駅】の支配さ。そうなったら、仮想現実における総ての〝世界〟がシャドウの思いのままだ」
玄之丞は、すぱーり、すぱーりと葉巻をふかしながら真剣な顔つきになった。
「しかし、なぜ選りに選って、今だ? この十年、シャドウは、なぜ行動しなかった?」
二郎は肩を竦めた。
「【ロスト・ワールド】が、まだそれほど成長していなかったからだ。
他の〝世界〟に罠を仕掛けるくらいが関の山だった。しかし、罠のお陰でプレイヤーを多数ごっそり捕えることができ、プレイヤーの持っている【ハビタット】を吸収して〝世界〟を成長させた。時節到来とシャドウは考えたのだろう。
だが!」
二郎は芝居がかった仕草で、指を一本立てて見せる。
「【蒸汽帝国】に〝門〟を作り出したことにより、おれのチャンスが高まった。
今までは潜入しても脱出ルートを確保できず、周辺部を探索するのが精一杯だった。
だが、あの〝門〟のおかげで、一番の重要な問題を解消できる。真っ直ぐ中心部に達し、目的を果たしたら、すぐさま【蒸汽帝国】に空けられた〝門〟から脱出できるからな」