バケツ
晴彦は、一向に目を覚まそうとしない。
揺すぶろうが、蹴り上げようが、お構い一切なしに、鼾を盛大に上げている。
玄之丞は苛々して、隣でにたにた笑いを浮かべている知里夫に叫んだ。
「知里夫! 水を持ってこい! コップじゃないぞ、バケツで持ってくるんだ!」
「へいへい」
気のない返事をして、知里夫は部屋から出てくると、すぐ手にブリキのバケツを提げて戻ってきた。
玄之丞の顔を見る。
「やれ!」と玄之丞は短く命令する。
知里夫は頷き、バケツを持ち上げぶちまける。
ばしゃっ!
バケツの水はまともに晴彦の頭から注ぎ込まれる。
ごおおおおっ……!
相変わらずの鼾。玄之丞は地団太を踏んだ。
「糞っ! こいつは一旦こうなったら、絶対に目を覚まさん! まったく、頑固な三年……いや、百年寝太郎だわい!」
諦めたのか、椅子に座ると葉巻を口に咥え、二郎に話し掛ける。
「仕方ない、話を続けようか?」
知里夫は自分用に椅子を引いてくると、背もたれを抱える逆向きの格好で座り込んだ。
二郎は晴彦を見て「いいのか?」と玄之丞に確かめた。玄之丞は頷いた。
「構わん! どうせ、起きていても聞いちゃいないんだ。それで【ロスト・ワールド】攻略の時節が来たと言ってたな。どういう訳だ?」




