鼾
タバサは二郎に囁いた。
「今、兄貴って、あの人が言ったわね。ということは、兄弟?」
「そうさ。真葛三兄弟というのが、おれの連れて行きたい仲間なんだ」
二郎はタバサに顔を向けず、囁き返した。
「三兄弟? それじゃ、もう一人いるの?」
「そうだ……おい、玄之丞。晴彦はどうしたね? 三人が揃ったところで仕事の話をしたいんだが」
ようやく白い消火液を振り落とし、玄之丞は顔を上げた。
「晴彦! そう言えば、姿を見ないな。おい、知里夫。あいつはどこだ?」
「知らねえ」と知里夫は肩を竦める。
玄之丞は「むっ」となる。
「こんなときに、あいつは……。おおい! 晴彦! どこにいる!」
ぐおおおおっ……。
まるで返事のように、鼾の音が聞こえてきた。玄之丞は、にっこりとなった。
「おるわい。この部屋のどこかに隠れておる! さあ、どこにいる?」
にやりと笑いを浮かべ、玄之丞はぎろりと部屋の中を見渡した。
すぐさま玄之丞の目が鋭く、部屋の隅にある洋箪笥に向かった。ぴょこぴょこと歩いていくと、耳を押し当てる。
ばたんっ、と箪笥の扉を開くと、中からコートを纏った、もじゃもじゃの金髪の男がころりと転がり出る。
ばたん、と腹這いになり、それでも「ごおおっ」と盛大に鼾を掻いている。
「晴彦! 寝てないで起きろ! こら!」
玄之丞が靴の先で蹴るが、晴彦と呼ばれた男はまるで木偶の坊のように寝っ転がったまま鼾を掻きつづけた。
玄之丞は頭をくしゃくしゃと猛烈な勢いで掻き毟った。