消火器
デスクの下からガス・バーナーを取り出し、「ぱんっ」と音を立てて点火すると、青い炎を葉巻に近づける。
葉巻はバーナーの熱で一気に燃え上がった。
「あっちちちち!」
燃え上がった葉巻を口から離し、玄之丞は悲鳴を上げた。
転がったガス・バーナーの炎が絨毯に燃え上がり、あたり一面ぼぼぼっと瞬時に火の海になる。
玄之丞は叫んだ。
「火事だ! 火事だ! 消火器を!」
「火事だって?」
部屋の奥からドアを開け、もう一人の人物が姿を表した。
ぎょろりとした大きな目にグレーの上下。頭にはなんとも形容のしようのない、妙な帽子を被っている。手には消火器を抱えていた。その場の惨禍を見てとり、男は消火器のホースを向けて消火液を噴出させる。
あっという間に、火事は消し止められた。
しかし噴出した消火液で、玄之丞は頭の上から爪先まで真っ白になってしまう。
玄之丞を見て、男は溜息をついた。
「兄貴、葉巻に火を点けるときは、マッチで充分だといつも言っているだろう?」
玄之丞から目を離し、男は二郎を見て驚きの色を見せた。
「客家二郎! 珍しい客人もいるもんだ」
「久しぶり、知里夫君」
二郎は、にこやかな挨拶をする。
知里夫と呼ばれた男は左右のタバサとゲルダに目をとめる。
鋭い視線。油断のなさそうな、にたにた笑いが顔に浮かんだ。