名刺
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│私立探偵 真葛玄之丞{げんのじょう} │
│失せ物、探し人、何でも請合います │
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男はデスクの表面に、トランプのカードを配るように、タバサとゲルダに名刺を投げて寄越した。
名刺の名前を見て、タバサは客家二郎以外にも、日本人名を使うプレイヤーがいるんだと少し感心した。
それでは、目の前の真葛玄之丞と名乗る男は、日本人なのだろうか? 大きな鼻と、彫りの深い顔立ちは、どことなくアメリカ人に見えるが。
用意された三脚の椅子に、二郎を真ん中に左右にタバサとゲルダが座る。
「【ロスト・ワールド】とな? 本気なのか、二郎君」と、やや横を向き、葉巻をふかしながら玄之丞は流し目で二郎を見た。
二郎は真面目な顔で頷く。
「そうだ。【ロスト・ワールド】に出かける約束は、忘れていないだろうね」
「忘れてはおらん! おらんが、吾輩は忙しいのだ! 今週も、ヨーロッパのさる公国から仕事の依頼があってね、出かけなくてはならん!」
玄之丞は嘯く。
二郎は、すぐ反撃した。
「嘘つけ! あんたの腹は読めているぜ。臆病風に吹かれたのか?」
ばん、と玄之丞はデスクを叩く。
「失礼千万! 無礼にもほどがある! 吾輩が臆病風とは! 取り消せ!」
髪を振り乱し、玄之丞は両手をデスクについて、ぐいっと顔を突き出した。
二郎は顎を上げ、「けっ」と短く笑う。
「取り消すよ。あんたが一緒に【ロスト・ワールド】に付き合うってならね!」
「ふうむ」と玄之丞は椅子に再び座りなおし、短くなった葉巻を灰皿に押しつけるようにして消した。
もう一本、胸ポケットから取り出して、口に咥える。