予想
ティンカーはすっ、とプログラムの中へ飛び込んでいく。組み上がったブロックを押したり、引いたりして、ちょっとずつ動かしていく。
が、どうやっても微かな隙間ができる。微妙に異なるジグソー・パズルのピースを強引に押し込んだかのように。
ティンカーは何か考えているのか、球体から立方体に変化した。表面に目まぐるしく、様々な図表や記号が光の線になって現れる。やがて、もう一度球体に戻り触手を伸ばして、空中からもう一つ、小さなブロックを取り出した。問題のブロックと接合する。
「修正プログラムです! これで、うまく行くはずです!」
今度は、かっちりとブロックは組み上がった。どの命令ブロックにも、隙間やはみ出しはなく、完璧な構造を見せていた。
ほっと二郎は溜息をついた。
どすん、とソファに倒れこむように座り込むと、天を仰いだ。
ティンカーが心配そうにおずおずと近寄った。
「こちらのプログラムは修正できましたが、コピーのほうは?」
「ああ」と二郎は生返事をする。
「おれの分身が残された〝世界〟にあるのは、修正されていないオリジナルだ。あのままでは、あの〝世界〟は【ロスト・ワールド】になってしまう……」
ティンカーは慰めるような声を掛けた。
「でも、不完全な〝世界〟なのですよ。そういった〝世界〟は、時間が経てば自然消滅するのでは?」
二郎は首を振る。
「いいや! あそこには、おれの分身が残っている。つまり、今のおれと同じ知識と経験を持つもう一人のおれだ! もし、おれだったら、黙って自分が消滅する運命を甘んじて受けると思うか?」
ティンカーの表面に大きく「?」の記号が浮かんだ。
「何が起きると思います?」
二郎はぼんやりと何もない空間を見上げていた。ティンカーの滑らかな表面に、自分の放心したような顔が映し出されている。
「おれだったら……〝魔界〟を作り出すだろうな……。のこのこ迷い込んでくるプレイヤーを呑み込んで〝世界〟を成長させる肥やしにするために……」
「魔界!」
ティンカーはショックを受けたのか、表面に大きく「!」のマークが浮かんでいた。