ウサギ
エレベーターのドアは、すぐに開く。
「いらっしゃいませ! 何階をご利用ですか?」
エレベーター・ボーイのお仕着せを身につけたウサギが陽気な口調で声を掛けてきた。片手にニンジンを持って、時々かりかりと齧っている。
息を詰め、二郎が中に踏み込む。タバサと少佐も後に続いた。
タバサはしげしげとウサギを見つめた。
マンガの登場人物のような格好をしている。きょろりとした大きな両目に、笑い顔を貼り付かせたような顔つきである。
ウサギはタバサの視線を感じ、ウインクしてきた。
馴れ馴れしいウサギの態度に、タバサは「むっ」となって顔を背ける。
「最上階だ」
二郎の言葉にウサギは「かしこまりました!」と大声で返事をして、エレベーターの操作レバーをぐいっと引いた。
「きゃあっ!」
出し抜けにエレベーターはロケットのように上昇する。物凄い加速で、全員の身体がぺっしゃんこに縮んでしまう。
がくんっ! とエレベーターは急停止する。
ぴしゃんっ、と急停止した反動で全員はエレベーターの天井にぶつかってしまう。
からからから……と皿が回転するような音を立て、ぺったんこの全員は床に転がる。
「最上階です……」
ウサギの声がする。ぺったんこのウサギから、大きな両耳がぴょこんと出ている。
ドアが開き、皿のように平べったくなった二郎は、にゅっと足を外に出して、のこのこと歩き出す。
「もう……やんなっちゃう……」
タバサの呟きに、二郎はもごもごとくぐもったような返事を返した。
「我慢しろ。この前こいつに乗ったときは、天井を突き抜け、道路の向かいのビルに突き刺さった。今回は、まともに止まっただけ、めっけものさ!」
「むん!」と二郎は力む。ぴょこり、と二郎の身体が元に戻った。
タバサ、ゲルダも、同じように力んだ。
ぱこん、ぺこん……とブリキ缶のような甲高い音とともに、二人の姿は元に戻る。
「はあっ」とタバサは息を吐き出した。
二郎が目の前のドアを指差した。
「ここだよ」