横断
ゲルダは不審な顔になる。
「仕事? こんな〝世界〟で、まともに仕事をしていると仰るのですか?」
二郎は「ぷっ」と吹き出す。
「仕事と言っても、探偵だよ。奴らは、この〝世界〟で、探偵事務所を開いているんだ。もっとも、ここでの探偵だ。世間で言う探偵とは、だいぶ違いがあるがね。さあ、行くぞ!」
二郎は、さっさと道路を渡り始める。
ひゅうーっと風を切って、二郎のぎりぎりを数台の車が駆け抜ける。
ぶつかる! とタバサは思わず固まった。
しかし二郎は、平気な顔で歩みを止めない。数台の自動車がすぐ真横ぎりぎりを通過するが、二郎はまったく気にも留めない様子だ。
「行きましょう」
ゲルダ少佐は意を決したかのごとく、大股で道路に踏み出した。
タバサも、ちょこちょことした小走りでゲルダに続いた。とり残されるのは厭だ!
猛スピードで道路を車が通り過ぎる。すべて二人のすぐ側をブレーキを掛けることもなく、怖ろしいほどの勢いである。
タバサはゲルダの顔を盗み見た。平気な顔で真っ直ぐ前を見詰めているが、頬にはじっとりと冷や汗を掻いている。
道路の横断には、一生分の時間が掛かったかのようだった。