大騒ぎ
「な、何なの、この騒ぎは?」
タバサの言葉に、二郎は、のんびりとした調子で返事をする。
「これが【スラップ・スティック・タウン】の、いつもの一日さ。今日は、どちらかというと、控えめなほうだな」
タバサはゲルダ少佐を見た。
ゲルダ少佐は、苦虫を噛み潰したような顔で頷いた。
「まったく、その通り! だから、わたしは来たくなかった。この〝世界〟は、いつもこんな調子なんです」
三人の立っているのは、二十世紀初頭と思える、アメリカの都市の一角だった。ニューヨークとシカゴ、サンフランシスコを混ぜ合わせたような、と形容すべきか。
地面は舗装されていないが、十階建て以上のビルが延々と立ち並び、歩道には路上販売の屋台が連なっている。
走っている車は明らかにガソリン・エンジン駆動である。あちこちで車が正面衝突したり、先ほどのようにビルの窓から人が降ってくるが、歩行者たちはちらとも関心を示さない。怖ろしいほどの事故でも、当事者は傷一つなく平気な顔で走ったり、滑ったり、ともかくドタバタした騒ぎを続けていた。
ゲルダ少佐は二郎に厳しい顔で話しかけた。
「それで、あなたの言うお仲間ですが、どこにいるんです?」
二郎は指を上げ、道路の向かい側の建物を指差した。看板には「ココナッツ・ホテル」の文字がある。
「たいていは、このホテルの最上階にいるはずだ。仕事がなければな」