スラップ・スティック・タウン
〝門〟を抜けた途端、目の前に派手なピンク色の車が、壁に激突して、ぺしゃんこになる光景に出くわす。
いや、ぺしゃんこに実際なったのだ。くしゃくしゃと、銀紙を折り曲げたように車体が歪み、ぷしゅーっと車体から白い煙が上がっている。
よろよろと中から運転手らしき、真っ赤な上着に、黄色のズボン。真っ青なシャツと人間信号機のような色合いの、ひょろりと痩せた人物が飛び出した。頭にはおかしな格好の、帽子を被っている。運転手は帽子を毟り取り、忌々しげに地面に叩きつけた。やけくそのように、車体を蹴り上げる。
「おーほっほっほっほっ!」
蹴り上げた足のほうが痛かったらしく、大袈裟に呻いて、ぴょんぴょんとその場で飛び上がっている。
目の前を「かんかんかん!」とベルを鳴らし、消防車が猛然と通りすぎた。消防車には、数十人とも思える消防士が鈴なりになって、必死に車体にしがみついている。
消防車は怖ろしい勢いで急カーブを曲がり、ばらばらと十名ほどが振り落とされる。振り落とされた消防士は、すぐ立ち上がり、慌てて消防車を追いかけた。
「わあああっ!」
悲鳴にタバサが顔を上げると、ビルの屋上から誰かが手足を大の字に広げ、落っこちてくるところだった! 思わず首を竦め、タバサは一歩さっと後ろに下がった。
目の前の地面に、人が「ぴしゃんっ!」と大きな音を立て落下した。落下した人物は、地面に平たく、絨毯のようにぺっしゃんこになってしまう。
足音に、そちらを見ると、数人の救急隊員らしき男たちが、台車に載せたボンベをごろごろと押して駆け寄ってくる。ボンベの腹には【ヘリウム】の文字があった。
救急隊員はボンベのホースの先を地面にぺっしゃんこになった人物の口に咥えさせ、すこすこすこと音を立てて気体を送り込む。
ぷーっ、とぺっしゃんこになった人物が膨らみ、元の形を取り戻した。が、救急隊員たちは、ボンベをまだ操作している。遂には落ちた人物は、まん丸に膨らんだまま空中に浮かび上がった。
ぽんっ! と、口からポンプのホースが取れてしまった!
ぷしゅーっ、と音を立て、人物はその場から風船から空気が脱け出るように空中高く飛び去った!