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電脳ロスト・ワールド  作者: 万卜人
エミリー皇女救出会議
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絵美

 タバサと二郎は同時に「えっ!」と声を上げた。


 タークは、じっと病床の少女を見つめる。

「本名は絵美。幼い頃、火事で一酸化炭素中毒になり、一命だけは取りとめた。しかし全身麻痺で、今はこういった人工心肺などの人工臓器で、辛うじて生き永らえている。今、見ているのは、現実世界での映像を、同時にモニターできるよう、こっちに映し出した姿だ。これがエミリーの本当の身体なんだ」


 二郎の唇が、細かく震えている。


「それで……この娘の本当の年齢は?」

「十二才だ」


 二郎は大きく頭を振った。


「馬鹿な! 十八才を過ぎなければ、仮想現実接続装置は……」


「知っている」と、タークは頷いた。


「しかし、この娘が歩くことはおろか、寝返りすら打てないまま成長するのを見守るのは、親として忍びなかった……」


 二郎は愕然とした表情になる。


「親? それじゃ、あんたは?」

「そう、わたしはこの娘の実父だ。

 わたしは、あらゆる伝手を使って、仮想現実装置をこの娘に接続できるよう手配した。

 仮想現実なら、実際の身体が全身麻痺の状態にあっても、分身を使って普通の人間と同じく、歩いたり、あるいは感じたりできる。

 そのため、仮想現実において絵美のセルフ・イメージを構築し、今では娘の身体に対するセルフ・イメージは、こちらが優先されている。本来の身体は、絵美──いや、今はエミリーと呼ぼう──の肉体反応を反映するための土台となってしまっている。事故による全身麻痺に陥って、仮想現実接続装置を使い出して十年、エミリーは唯の一度も、現実世界で目覚めたことはないんだ」


「そんな、無茶な……」

 二郎はタークの告白に肩を落とした。

「そんなことをしたら……」


 タークは暗い眼をした。


「そうさ。そんなことをしたら、神経の接続は、ばらばらになったまま成長してしまう。しかし、それでも構わないと、わたしは思ったんだ。仮想現実であっても、普通の娘のように歩いたり、走ったり、歌ったりできるからね」


 震える両手で、タークは顔を覆う。手の平からくぐもった声が聞こえてくる。


「エミリーが【ロスト・ワールド】で〝ロスト〟してしまい、接続が強制切断されたときに、いったい何が起きるか……! 考えたくもない!」

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