プログラム
二郎は頷く。
「そうだ。〝世界〟を造ることに失敗した。【パンドラ】に致命的なバグがあったらしい。ティンカー、【パンドラ】のプログラムを……」
二郎の命令でティンカーは空中にさっと飛び上がった。
球体はぱくんと二つに割れ、その中から【パンドラ】のプログラムが展開された。二郎の目の前に【パンドラ】の全プログラムが表示される。
二郎は自分の作品ともいえる、【パンドラ】のプログラム・ファイルを眺めた。
といっても、ずらずらと並ぶプログラム言語の行を想像しては的外れだ。一番近い例えは、色とりどりのブロックで組みあがった都市計画の立体模型といったところか。
一行一行、キーボードから命令を打ち込むプログラム方式は、すでに廃れている。現在では、様々な命令ブロックを組み合わせ、仮想現実空間で3D的に構築する方法が一般的に採用されている。
そもそも、プログラムの規模が巨大すぎ、一行ずつ確認しながらプログラムするなど、不可能なのだ。
もし【パンドラ】の全プログラムを機械語にコンパイルして表示したら、一生どころか、何百年も掛けても総て読みきれるものではない。
ソファから立ち上がり、二郎は目の前の【パンドラ】のプログラムに近寄った。
すっと指をプログラムの一箇所に近づける。
二郎の動きに反応して、プログラムの一部がぐーっと拡大され、細部が表示される。みっしりと組みあがった、複雑極まりない構造が広がった。
「ここだ! この箇所がバグの原因だ!」
二郎の指摘に反応して、プログラムの一部分が赤く点滅している。きっちりと組み上がった構造の中で、その部分だけは僅かな不整合を見せていた。
ティンカーも納得して、何度も頷くかのように、空中で跳ね回る。
「ああ、判りました! この命令ブロックは、他の命令ブロックとうまく噛み合わない特性を持っていたのですね。それで、バグが……」
二郎は鋭く押し殺した声を上げる。
「修正できるか?」