命令
「いいえ、断ったってムダよ! あたしは何としても、あんたと一緒に【ロスト・ワールド】に潜入させて貰いますからね! それが、あたしたち【蒸汽帝国】の国民としての義務です!」
ちら、と二郎は目を上げ、ゲルダを見た。ゲルダの両肩は大きく動き、ふーっ、ふーっと大きく息をついている。
「それじゃ、ディスクを投げ入れる役目は誰が引き受けるんだ?」
二郎の言葉に首相が顔を上げた。
「わたしが、その役目を引き受ける」
「はっ」とゲルダが首相を見た。首相は苦い笑いを浮かべた。
「わたしは、年寄りだ。【ロスト・ワールド】に救出部隊の一員として従っていきたい気持ちは山々だが、足手纏いになるのは判りきっているからな。だから【ロスト・ワールド】の〝門〟を、じーっと見張って、あんたの合図を待っているよ」
最後には二郎に視線を注いで言葉を切る。次いでゲルダに目をやった。
「少佐、君はこの客家二郎とともに救出部隊に参加してくれ! 皇女のことは頼んだぞ」
少佐は、さっと敬礼した。
「お任せ下さいっ!」
「やれやれ……」
二郎は肩を竦める。
「それじゃ仕方ない。だが、言っておく。向こうに入ったら、おれの指示に絶対服従だということを忘れるな!」
少佐は悔しそうに頬を染めた。二郎は居並ぶ大将、元帥の顔ぶれに話しかけた。
「それから広場の〝門〟には絶対に人間を入らせるな! これ以上、ゴタゴタの種を持ち込んで貰っては困るからな」
軍人たちは無言で頷く。どうあっても、二郎とは直接、会話をすることは拒否するつもりらしい。
タバサは二郎に話しかけた。
「あたしも参加するからね!」
二郎は、ぎょっとなってタバサを見つめた。
「何だと?」
タバサは二郎に向け、笑いかける。
「そこの少佐と同じ、あたしも何としても皇女さまの救出に加わりたいの。断ったって、ムダよ!」
二郎は両手を上げた。
「勘弁してくれよ……」