支援
二郎はティンカーに視線を向け、ゲルダに返事をした。
「こいつは、おれの相棒だ。ティンカーは、おれが【パンドラ】を開発したときも、プログラムの主要な部分を構成している。つまり仮想現実のことは、隅から隅まで承知しているってわけさ! こいつの案内で、おれは【ロスト・ワールド】から元の〝世界〟への道筋を見つけ出すことができた。だから、無事に〝ロスト〟も免れたってわけさ!」
ゲルダの視線が厳しいものになった。
「あなたは自分がエミリー皇女の救出部隊を召集するって、言ったわね?」
二郎は頷いた。
「ああ。こいつは、危険な任務だ。おれは、自分が信頼できる仲間しか、連れて行きたくはないからな」
ゲルダは怒りを押し殺しているようだ。
「で、あんたが我々にして貰いたい支援とは?」
二郎はティンカーに合図する。
ティンカーの身体の一部がぱかっ、と開き、中から一枚のきらきら光る円盤が飛び出した。円盤はふらふらと空中をさ迷い、ゲルダ少佐のテーブルの上にぴたりと着地する。
「そいつは【パンドラ】のバグを修正するプログラム・ディスクだ。
おれが【ロスト・ワールド】に潜入して合図を出すから、その時になったら劇場跡の〝門〟にディスクを投げ込んでくれ。
恐らくあの〝門〟は【ロスト・ワールド】の中心部に達しているはずだ。ディスクは向こうの【パンドラ】に真っ直ぐに飛び込み、バグを修正する!
しかし、おれからの合図無しで投げ込んでも何にもならんから、覚えておけよ!」
「それだけ? それだけが、あたしたちに頼みたいことなの?」
ゲルダ少佐の両手が握り締められる。
ばんっ! と勢いよくテーブルを叩く。びくりと二郎以外の全員が飛び上がった。
ゲルダ少佐はぐい、と立ち上がった。
「馬鹿にしないで! 誘拐されたのは、あたしたちのエミリー皇女なのよ! その救出任務に、あたしらはあんたを信じて、ぼけっとミツユビナマケモノのように、ただ待っていろって言うのね!」
二郎は退屈そうに指の爪を見ながら答える。ゲルダとは目を合わせようとすらしない。
「どうしろ、って言うんだ?」
「あたしを救出部隊に参加させなさい!」
ゲルダは上半身を二郎に傾け、燃えるような瞳で睨みつけた。