ナイフ
タバサは二郎に囁いた。
「何を言っているの?」
二郎の表情に、タバサはまた自分が馬鹿な質問を仕出かしたことを悟った。が、引っ込んでもいられない。
「教えてよ!」
「しょうがないなあ」
二郎は、うんざりした声になり、身を屈めてブーツに差しているナイフを取り上げる。
「見てろよ」と二郎はタバサの目を見てナイフを握りしめ、空いている左手でタバサの右腕を掴みテーブルに固定した。
「な、何をっ!」
タバサは悲鳴を上げる。
二郎はタバサの悲鳴に取り合わず、いきなりナイフをタバサの右手の甲に突き立てた!
どすっ! という鈍い音がして、タバサの右手の甲にナイフが突き刺さる。一瞬、ちくりとした痛みを感じる。タバサは思わず目を閉じた。
「見ろ、タバサ」
二郎の声に、タバサは恐る恐る目を開く。
自分の右手にナイフが突き刺さっている。しかし、案じられた血の一滴すら零れていない。痛みすらなかった。
ぐい、と二郎はナイフを引き抜いた。右手の甲には、何の痕跡もなかった。まるで何事も起きなかったかのようだ。
「な? 大丈夫だったろう?」
涼しい顔の二郎に、タバサの胸にむらむらと怒りが湧く。
「あんたって……なんて……!」
怒りの余り、言葉がうまく出てこない。




