怒り
「劇場でのおれとシャドウの会話を耳にした者がいると思うが、白状すると【ロスト・ワールド】は、おれが作り出した。そう、おれだよ。おれが【ロスト・ワールド】を作り出したんだ!」
怒りがタークとゲルダ少佐の顔を真っ赤に染めた。ぶるぶるとゲルダ少佐の腕が震え、腰に差した軍刀の柄を握り締めている。
今にも刀を抜き放ち、真っ向微塵に二郎に切りつけんばかりの勢いだ。
歯を食い縛り、ゲルダは一言一言を区切るように二郎に話し掛ける。
「それで……あなたは……何を……狙っているの……シャドウとお前の関係は?」
ゲルダ少佐の怒りを無視して、二郎は平板な口調で返事をする。
「おれの目的は【ロスト・ワールド】の正常化だ! 【ロスト・ワールド】は、おれが作り出した。だから、正常化の責任も、おれにある。エミリー皇女の誘拐というアクシデントがなければ、もっと簡単に行ったのだが。あんたらが折角の忠告を無視したから、おれは厄介な任務を押しつけられた、ということさ!」
最後のセンテンスは、タークに向けられた。
タークはぷい、と横を向く。
「【ロスト・ワールド】がどんな〝世界〟か知っているかね? あそこは独特な世界律で存在している。何と、倫理保護規定が、あそこでは存在しないのだ!」
二郎の言葉に、ターク、ゲルダ少佐は、ぎくりと顔を上げた。二人の顔色から血の気が引き、蒼白になっている。
「倫理保護規定が……存在しない?」
タークが繰り返す。二郎は頷いた。