ロスト
二十四時間が経過した。
睡眠を摂り、たっぷり休養を取った二郎は、元気を取り戻し、再び仮想現実装置に接続をした。ヘルメットを被り、目を閉じると、即座に仮想空間に立っている。
周りを見渡すと、真っ白な、何もない空間に、ゆったりとしたソファが置いてある。二郎はソファに腰掛け、口を開いた。
「ティンカー(修繕屋)……いるか?」
二郎の声に反応し、一瞬にして金属の球体が空中に浮かんだ。大きさはテニス・ボールほどである。
滑らかな真鋳の球体には、目も鼻もなく、つるりとした表面に見上げる二郎の顔が歪んで映し出されている。
「二郎さま! お呼びですか?」
ティンカーと呼びかけられた金属の球体から、きんきんと甲高い声が聞こえてくる。と、ぐっと球体が扁平になり、一本の腕のような触手が持ち上がり、困惑しているように自分の身体をこりこりと掻いている。その様は、まるで自分の頭を掻いているかのようだ。
「二郎さま?」
二郎は、にやっと笑いかけた。
「おれの姿がいつもと違うので、戸惑ったんだろうな。安心しろ、おれだ」
納得したのか、ティンカーは元の金属の球体に戻る。腰掛けている二郎の周りを、ぶんぶんと音を立て飛び回る。今の二郎は、実際の自分と同じ姿で、仮想空間にいた。
「〝シャドウ〟ではないんですね……」
ティンカーの言葉に、二郎は苦い思いを堪えた。
黒い肌に、白い雪のような髪をした姿に二郎は〝シャドウ〟と名付けていた。あの分身は二郎の自信作だったのに、もう取り戻せない。
分身は、同じものは二つとない。というより、作成することは不可能なのだ。
「ああ、あの分身は、ロストしたんだ」
「ロスト!」
ティンカーは甲高い声で叫ぶ。動揺しているのか、ぶるぶると表面が波打った。
「それって、つまり……?」