蒸汽砲
女性指揮官は、ヘルメットの前覆いを撥ね上げたまま、鋭い視線で舞台上のシャドウを見上げている。戦いの予感に、緑の瞳が煌いていた。さっと片手を挙げて合図すると、機敏な動作で部下たちが、巨大な筒のような武器を構えた。
「よせっ! 皇女さまが危ないっ!」
タークの叫びに、指揮官は振り向くと、にっこりと笑顔になった。
「安心して下さい、首相! 我々は、この瞬間のために日夜訓練を重ねてきました。皇女さまには、掠り傷一つ、つけません!」
「し……しかしっ!」
タークは心配顔だ。
指揮官は、もはや首相には関心をなくしたのか、さっと振り上げた腕を下ろし、叫ぶ。
「蒸汽砲、攻撃せよ!」
言葉が終わらぬうち、部下が蒸汽砲の引き金を引く。
ずばあーんっ!
魂消るような大音量で、筒の先端から真っ白な蒸汽が固まりとなって飛び出す。
本来は気体のはずなのだが、まるで個体のようにしっかりとした輪郭を持っている。白い蒸汽の固まりは、狙いたがわず、シャドウの胸元に飛び込んだ。
ずばんっ、と白い蒸汽がシャドウの胸で爆発する。シャドウの全身がぐらっと揺れた。真っ白な髪の毛が逆立ち、真っ黒な顔に怒りの表情が浮かぶ。
「おのれ……小癪な……!」咆哮する。
二郎は肩を竦め、首を振る。
「大時代だね、どうにも……」
そっとタバサの腕を掴み、後退する。耳元で囁いた。
「あんな時代物の旧式兵器で、シャドウをどうにか始末できるもんじゃない! 巻き込まれないうち、こっちは、おさらばしようぜ!」