蒸汽軍
膝を突き、腕を伸ばす。
シャドウの腕は、立ち竦んだままのエミリーに伸ばされている。ぶんっ、と腕を振り、立ち塞がるターク首相を弾き飛ばし、手の平を開いて、がばっとエミリーを掴み上げた。
「きゃあああああっ!」
エミリーは、あらん限りの声を張り上げ、悲鳴を上げた。
シャドウは爛々と目を輝かせ、虜にしたエミリーの顔を覗きこんだ。
「エミリー皇女さま……そなたに、新たな玉座を用意しよう……【ロスト・ワールド】の玉座を!」
軽々と弾き飛ばされたタークは、よろよろと立ち上がった。ポケットから携帯蒸汽電話を取り出し、送受口に向かって叫ぶ。
「蒸汽帝国軍! すぐ劇場内に突入せよ!」
劇場の出入口が、ばんっ、と音を立てて開かれた。さっと差し込んだ外光とともに、完全武装の帝国軍の兵士が怒濤の如く突入してくる。皆、一様に重装備のプロテクターを身につけ、頭からは防護ヘルメットを被って、まるでロボットの一団であった。
先頭の、指揮官の襟章を付けている兵士が、ヘルメットの覆いを撥ね上げる。下から現れたのは、若い女性の顔である。
きりっとした表情、瞳は深い緑色、ヘルメットの下から燃えるような赤い髪の毛がこぼれ出ていた。指揮官の女性は、この場の状況を一目見て「はっ」とばかりに喘いで叫ぶ。
「エミリー皇女さま!」
皇女を掴み上げたシャドウは、邪悪な笑みを浮かべ、兵士たちを睨みつける。




