野望
二郎は冷静な口調で答える。
「お前の姿は、おれが最初に作った分身だ。あの頃は、おれも若かったな。そんな姿が格好いいと思っていたからな。今では、つくづく後悔しているよ」
シャドウの顔に、きりきりと怒りの皺が刻まれた。
「馬鹿にしやがって! もともとは、お前のせいではないか! おれがシャドウになったのも【ロスト・ワールド】が誕生したのも! 勝手な御託を抜かすな!」
二郎は憂い顔になった。
「そうだ。総ては、おれの間違いでおきた! 間違いは正さねばならない……」
シャドウは嘲るように笑った。
「どうするというのだ? おれは知っているぞ。お前は【ロスト・ワールド】に何度か侵入を図っていたな。
もっとも、侵入した途端、ほうほうの態で逃げ帰っているが。多分、お前は【パンドラ】の修正をするつもりなんだろうが、無駄なことだ。おれは、十年前のお前のままではない。この十年、おれは着実に進化している。【パンドラ】も同じだ! お前の手に負えるレベルの代物ではない!」
二郎は、ひた、とシャドウに目を据えながら詰問する。
「これから、何を仕出かすつもりだ? 進化したと言う【パンドラ】と、お前は」
ぐっとシャドウは背を聳やかす。見る見るシャドウの全身が膨れ上がる。
いや、実際に巨大化している。背が、肩幅が、両足がぐんぐんと膨れ上がり、ついには頭が天井に届かんばかりになった。
「全〝世界〟の征服だ……! 手始めは【蒸汽帝国】!」
シャドウの声は、ごろごろと石の車輪が転がるときのような響きを帯びていた。