門
「ば……馬鹿なっ!」
舞台の袖から、首相のタークが顔を真っ赤にさせ、飛び出してくる。エミリーを庇う位置に立って、頭を振り立てながら叫んだ。
「傘下に入っただと? 出鱈目も大概に申せ! たった一人で、法螺を吹くとは、お前は──だ……!」
恐らく「気違い」と言いたかったのだろう。しかしタークの口元はぱくぱくと、虚しく動くだけである。仮想現実では、こういった差別用語は、テレビ放送コードに準じて自動的にカットされる。
「傘下に入ったとは、どういう意味だ?」
シャドウは冷ややかな視線をタークに向ける。タークはシャドウの一瞥に、ぎくりと立ち竦んだ。シャドウは、さっと背後の輝く階段に向け、腕を振り上げる。
「この階段が見えないのか? これは、我が【ロスト・ワールド】に続く〝門〟なのだ。お判りかな、ターク首相。すでに【ロスト・ワールド】と、あなた方の【蒸汽帝国】は、繋がってしまっている。つまり【蒸汽帝国】は【ロスト・ワールド】の一部になった、ということだ」
「何い?」
タークは驚きに目をひん剥いた。両目が飛び出るばかりに見開かれている。
「まだ早い!」
しん、と静まり返った会場に、鋭い怒鳴り声が響き渡る。
シャドウとターク首相、それにエミリーの三人は、声の方向に目をやる。
観客席通路の真ん中に、二郎がぐっと両足を踏ん張り、シャドウを睨みつけていた。
シャドウの顔に驚きと、皮肉な笑みが同時に浮かぶ。
「これはこれは……。客家二郎、お懐かしや、その姿。オリジナルの姿のまま、分身を製作したのか!」
シャドウは、歌うように楽しげに二郎に話しかけた。ぎゅっと唇の両端が持ち上がってVの字を形作り、悪魔的な笑みを浮かべている。