暗転
舞台は再びエミリー一人になり、独唱になった。
微かに顔を挙げ、どこか遠くを見つめるエミリーには荘厳といっていい神秘的な表情が浮かんでいた。エミリーの身体を包むようにして、白い蒸汽が盛んに噴き出している。
ふと、隣の二郎の様子がタバサは気になった。タバサと同じく、舞台に夢中になっているのかと思ったが、その視線はエミリーに向けられてはいない。どこか、違う方向を見ている。
「どうしたの?」
小声で囁くと、二郎は微かに首を傾げる。
「妙だ……演出が変わったのかな? あんなに蒸汽を出す場面じゃないのに……」
二郎も小声で囁き返した。タバサは、ちょっと驚いた。
「前にも……って、あんた以前にもこれを見たことあるの?」
二郎はタバサに顔を向け、にやりと笑った。
「まあな。おれは、仮想現実で行われている総てのことには興味があるんだ」
もくもくと白い蒸汽が盛大に噴き出し、ついには舞台全体を覆ってしまった。歌っているエミリーの姿も、ほとんど見えなくなる。二郎が明らかに緊張した様子で身を乗り出す。
「どうやら始まったらしい……!」
じわり……と白い蒸汽の中から、黒い影が姿を表した。
姿を表したのは、巨大な扇風機であった!