歌劇
スポット・ライトの中に立っているエミリーは、燦然と輝いていた。
衣装は純白のドレスに、一面にスパンコールが縫いこまれ、微かな身動きできらきらと輝いている。
サキソフォンが誘うようなソロを演奏する。エミリーは、朗々としたアルトで歌いだした。バイオリンが演奏に加わり、打楽器が力強いリズムを刻み、音楽は雄大な広がりを作り出した。
エミリーの頬が赤らみ、次第に音域が高まっていく。
アルトの声調からメゾ・ソプラノ、ソプラノへと高まり、コロラトゥーラ・ソプラノへと駆け上がっていく。
歌声に、詰め掛けた観客から笑い声が聞こえてくる。中には、一緒になって歌っている観客も見受けられる。
どうやら歌詞に反応しているらしいが、どこが可笑しいのか、タバサにはさっぱり判らない。
【蒸汽帝国】に長くいる住民にとっては自明の冗句なのだろうが、初めて聞くタバサにとっては、珍紛漢紛の内容である。ともかくエミリーの圧倒的な歌唱力には感心するが……。
出し抜けに、白い蒸汽が舞台を包んだ。さっと両側からダンサーが飛び出し、エミリーを囲んで軽快なステップでタップを踏む。エミリーもまた、タップに合わせ手拍子をして踊る。会場からリズムに合わせ、拍手が巻き起こった。
舞台の袖から、首相が現れる。わざとらしい顰め面で、歌いだす。意外なことに、首相は朗々としたテノールであった。しばらくはエミリーと首相の掛け合いが続いた後、舞台は暗転して、【蒸汽帝国】建国の場面になる。
夜明けを思わせる薄暗い空に、数本の煙突がもくもくと煙を吐き出し、舞台にはあちこちから蒸汽が噴き出している。
がちゃん、どしんと力強い機械の音が音楽と溶け合い、いやがおうにも観客の心を掴んで離さない。
我知らず、タバサは身を乗り出し、演じられている内容に夢中になっていた。