劇場
「凄い、人の列ねえ……」
待ち合わせたタバサと二郎は広場で落ち合い、劇場に向かった。劇場の切符売り場には観客の長い列が伸びて、最後尾は延々と一キロ以上に渡って続いていた。最後尾から劇場を臨み、タバサは二郎を振り返る。
今日の二郎は、洒落たスーツを身につけ、シルクハットを被っている。首許はネクタイではなく、バンダナを巻いて替わりにしていた。手にはステッキではなく、乗馬鞭を握っていた。足下は乗馬ブーツで、休暇中の若い貴族といった思い入れである。
タバサのほうは、この前の支給されたドレス姿のままだ。会うたびに二郎は姿を変えているが、いったいどうやって身につけるものを調達しているのだろう?
「これで開演に間に合うの?」
「どうだろうな」
二郎は関心のない素振りで、ぼんやりと呟く。タバサは苛々と足踏みをする。
「あんた、あの劇場で何か起きるって、言ってたじゃない? 公演を見に行くの、行かないの?」
「勿論、公演は見に行くさ」
二郎の様子に、タバサは首を傾げる。
「だったら……」
二郎の腕が伸び、ぐいとタバサの手首を掴んだ。
タバサは思わず「えっ?」となった。
二郎は、にやりと笑うと、無言でタバサを引っ張っていく。