決意
ベンチに座り込み、買い物の弁当を広げ、ぼんやりと夕日を眺めながら食べはじめる。
美味しい……。
たとえ大量生産の、無人工場で作られた弁当であっても、本物の素材、本物の食べ物は、洋子の空腹を満たしてくれる。
夕日が空を染め上げる。
廃墟のような街の景観はシルエットとなって夕空に沈み、醜い細部は影になって見えなくなる。それが仮想空間で見た、景色と重なる。
洋子は食べ終えた弁当と飲み物の容器をまとめ、屑篭に投げ入れた。容器は、ほんの少しの亀裂でも自然分解する素材でできているから、数日中には跡形もなく土に溶け込むだろう。
客家二郎のことを考える。あの名前は、本名なのだろうか?
ほとんどの仮想現実で過ごす分身は、外国風の名前を名乗っているのが普通だそうだ。だから洋子は、分身にタバサという名前を与えた。
二郎……。どう考えても、日本人の名前である。仮想現実接続装置には、自動翻訳機能がついているから、日本人であるという確証はないが。
【ロスト・ワールド】に挑もうとしている、あの客家二郎を考えるうち、洋子の胸にも新たな決意が育っていた。
そうだ、あたしも何か挑戦できるものを見つけよう。それが何か、今は皆目、見当もつかない。でも、二郎と知り合ったことが、きっかけとなるかもしれない。
〝ロスト〟は確かに脅威だが、ただ怖がったとしても、意味がない。第一、死ぬわけじゃないのだ。単に三日分の記憶が失われるだけじゃないか……。
ベンチから立ち上がり、洋子は家に帰る道筋を辿った。