表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
電脳ロスト・ワールド  作者: 万卜人
二人の創造主
4/198

現実

 ぐううう──と、腹が空腹を訴えている。二郎は強いて無視していた。が、諦め、起き上がると、食卓へ向かう。


 冷蔵庫を漁り、簡単な食事を済ませる。それでも空腹には勝てず、がつがつと獣のように食物を摂取し、飲み込む。食物は、短時間で摂れるよう流動食が大部分で、ただ飲み込めばいいだけのものだ。カロリー、ビタミン、無機物がバランスよく配合されているが、味は最低で、俗に言う〝犬も食わぬ〟ほど酷い。


 浴室に入り、シャワーだけで入浴を済ませると、着替える。髭を剃り、歯を磨く。


 メンテナンスの時間である。なにしろ三日間、ずーっと自分は、仮想現実接続装置に繋がっていたのだ……ろう。

 その三日間を、何も憶えていない。何一つ!


 最初にヘルメットを被り、目を閉じた瞬間から、目覚めた瞬間がストレートに繋がっている。一瞬の遅滞もない。目を閉じ、目を開けたそのとき、今のような醜態に陥っていたのだ。


 仮想現実装置は、二郎の部屋の中でただ一つ、どっしりとした外観を持って存在を主張している。

 革張りのマッサージ・チェアに良く似た外見の寝椅子──実際、その機能も組み込まれている──と、装置の本体。本体はすっきりとしたデザインで、真珠色の仄かな輝きを放っている。

 二郎は立ち上がり、窓に向かった。窓にはブラインドが下ろされている。二郎は苛立たしく、ブラインドを撥ね上げた。


 さっと夕日が部屋に差し込む。二郎は眩しさに目を細めた。


 窓の外から都会の風景が広がっている。薄汚れ、美的とはとても言えない無骨なビルが乱雑に並んでいる。

 人気は、ほとんどない。しんとした静寂が辺りを支配しているのみ。その窓の一つ一つに、二郎と同じような仮想現実装置に接続されたプレイヤーが、各々の夢を追っているのだろう。


 いや……。


「阿呆、阿呆、阿呆……」と、物寂しいからすの鳴き声が上空を渡っている。鴉だけが、この現実世界で生を謳歌しているような錯覚を、二郎は感じていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ