現実
ぐううう──と、腹が空腹を訴えている。二郎は強いて無視していた。が、諦め、起き上がると、食卓へ向かう。
冷蔵庫を漁り、簡単な食事を済ませる。それでも空腹には勝てず、がつがつと獣のように食物を摂取し、飲み込む。食物は、短時間で摂れるよう流動食が大部分で、ただ飲み込めばいいだけのものだ。カロリー、ビタミン、無機物がバランスよく配合されているが、味は最低で、俗に言う〝犬も食わぬ〟ほど酷い。
浴室に入り、シャワーだけで入浴を済ませると、着替える。髭を剃り、歯を磨く。
メンテナンスの時間である。なにしろ三日間、ずーっと自分は、仮想現実接続装置に繋がっていたのだ……ろう。
その三日間を、何も憶えていない。何一つ!
最初にヘルメットを被り、目を閉じた瞬間から、目覚めた瞬間がストレートに繋がっている。一瞬の遅滞もない。目を閉じ、目を開けたそのとき、今のような醜態に陥っていたのだ。
仮想現実装置は、二郎の部屋の中でただ一つ、どっしりとした外観を持って存在を主張している。
革張りのマッサージ・チェアに良く似た外見の寝椅子──実際、その機能も組み込まれている──と、装置の本体。本体はすっきりとしたデザインで、真珠色の仄かな輝きを放っている。
二郎は立ち上がり、窓に向かった。窓にはブラインドが下ろされている。二郎は苛立たしく、ブラインドを撥ね上げた。
さっと夕日が部屋に差し込む。二郎は眩しさに目を細めた。
窓の外から都会の風景が広がっている。薄汚れ、美的とはとても言えない無骨なビルが乱雑に並んでいる。
人気は、ほとんどない。しんとした静寂が辺りを支配しているのみ。その窓の一つ一つに、二郎と同じような仮想現実装置に接続されたプレイヤーが、各々の夢を追っているのだろう。
いや……。
「阿呆、阿呆、阿呆……」と、物寂しい鴉の鳴き声が上空を渡っている。鴉だけが、この現実世界で生を謳歌しているような錯覚を、二郎は感じていた。