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家は、しん、と静まりかえっている。
両親は、ちゃんと、家の中にいる。しかし、二人とも仮想現実に接続していて、各々の部屋へ閉じ籠もっている。
父親は「仮想現実での仕事で残業だ」と言っていたから、深夜まで部屋にいるだろう。母親も、仮想現実にパートで働きに出ているらしい。洋子は部屋を出て、キッチンに向かった。
気がつくと、空腹で目が回りそうだ。考えてみれば、朝から仮想現実装置に接続していていて、現実では何も口にしていない。
キッチンのテーブルには、洋子のための食事が出されていた。流行の濃縮栄養パック、というやつだ。紙のようにぱさぱさした食感の、味も素っ気もない食べ物だ。
キッチンには小型の情報端末が置かれている。昔は〝テレビ〟と呼ばれていて、今でも機能は変わらない。
洋子は、もそもそと食事を噛みしめつつ、端末を点けた。夕方のニュース番組が始まった。
だが、ほとんどのニュースは仮想現実での最新情報で、現実世界での出来事はまったくと言っていいほど、扱うことはない。
何しろ事件が起きないのだ。仮想現実接続装置が普及してからというもの、現実世界での犯罪は激減した。激減というより、ほぼ消滅したと言っていい。