夢
洋子は思わず目を背ける。
人は自分を誉めるとき、必ず同じセリフである。
「君は、とても綺麗な肌をしているね……」
ああ、そうでしょうよ! 他に誉める所がないから、しかたなしにそう言うしかないんだわ!
十八才の誕生日に、ようやく洋子は、この仮想現実接続装置を両親からプレゼントされたのである。十八才の娘としてはあり得ないほど派手に啜り泣いたり、懇願したりした大騒ぎの末だったが、それでも家に運び込まれたときは、天にも昇る嬉しさで一杯であった。
尤も、両親ともに装置を所有していたから、いずれ洋子にも、という両親の気持ちは判っていた。今どき、装置を所有していない人間のほうが少数派になっている。
父親は仮想現実に存在する〝世界〟に職を持っている。父親の言葉では、仮想現実の通貨〝ハビタット〟は、現実世界の通貨と交換可能で、今や仮想現実サラリーマン──チャリーマン──は仮想現実で勤めて、報酬を得ているのが大多数になっている。
洋子の部屋は、女の子らしく、ごてごてとした小物で溢れかえっている。小学生から使っている勉強机には、シールやお気に入りのブロマイドがべたべたと貼られ、壁には仮想現実世界でのアイドルたちの写真が所狭しと占有していた。
それらは洋子にとって夢の一部であった。
今日、仮想現実に実際に接続するまでは。
不意に、洋子は自分の部屋が色褪せたかのように思えた。もう、昨日までの自分には戻れない。仮想現実を体験した今、洋子の中の何かが死に、何かが生まれたのである。