忠告
あっさりと言い放つ二郎に、タバサは呆れて、口をぽっかりと開いてしまう。二郎に顔を近づけ、囁く。
「本当なの?」
二郎は頷いた。
「でも、どうして?」
二郎の表情が、真面目なものになる。
「あの国立劇場が、どうやら【ロスト・ワールド】の接触点らしいんだ。
あそこでは、今週、王宮主宰のミュージカルが演じられることは知っているだろう? 主演は、皇女エミリー。これは、どう考えても何かある。
おれにとって【ロスト・ワールド】の接触点が開くことは好都合だが、もしそれが主演するエミリーに危害が加えられるような展開になると、甚だ面倒な事態になる。だから公演を中止するよう、忠告しに忍び込んだんだ」
タバサは唇を舐めた。
「それで、どうなったの?」
二郎は首を振る。
「駄目だった。エミリーは頑固だな。どうあっても、公演は開催するの一点張りだ。ついでに、おれは曲者ということになって、追われる身となった。まあ、しかたないが」
「これから先どうするの?」
二郎は背を反らした。
「待つさ! ともかく、今週、主催されるミュージカルを、見に行こうと思う。君は、どうする?」
タバサは躊躇った。何だか、ひどくヤバそうである。
しかし……。
「行くわ、あたしだって!」
決意の印に、腕を組み、二郎を睨みつけた。
「ふうん」と二郎は溜息をつく。
「よせ、と言っても無理だろうな。まあ、勝手にするさ。但し、何が起きても、責任は取らないぜ!」
途端に弱気の虫が疼くのを、タバサは無理矢理どうにか堪えた。
「判ってるわよ……」
何でもお見通しとでも言うつもりなのか、二郎の視線がからかうようなものになった。皮肉な笑みを片頬に貼り付け、二郎はタバサに忠告する。
「もしもの事態を考え、仮想現実に接続する前はたっぷり休養を摂り、栄養をつけておくことだな!」
俄かな恐怖が、タバサの口調を弱々しいものにした。
「もしも、って何よ?」
二郎の表情が真剣なものになった。
「〝ロスト〟だよ。決まってるだろう?」
これには、タバサは二の句が継げなかった。