鳥打帽
正面前では実用的な軍服を身に着けた衛兵たちが、強張った顔つきで何か耳打ちしたり、命令を受けたりして右往左往している。
ぼんやりしていたタバサの顔に、影が差した。
「お一人ですか? お嬢さん」
柔らかな口調に、タバサは「はっ」と我に返って顔を上げた。目の前に見知らぬ男が立っている。男は夕日を背中に受け、黒々としたシルエットになっていた。タバサは目を眇めた。
灰色の地味なインバネス、鳥打帽、口元には濃い黒髭を生やし、目の表情を覆い隠す、黒いサングラスを掛けていた。
「いいえ、人を待っていますのよ!」
タバサはぷい、と横を向いた。どう見ても、怪しい!
いかにも自分は「曲者です」と看板をしょっているような、怪しい出立ちである。
「そうですか、残念ですね。この近くに、とても美味しい食事を出すレストランがあるのですが、よろしかったら……」
「しつこいわね!」
腹が立って、タバサは叫ぶ。
と、男の被っている鳥打帽に目が止まる。
電脳盗賊の紋章が夕日を受け、煌いた。
「あんた……」
男は口髭を毟り取り、サングラスを外した。
「ばあっ! おれだ!」
客家二郎の顔が現れた。