広場
「ちょっと行ってくる」と二郎が姿を消してしまった。
タバサは、ぽかんとした気持ちを持て余し、〝シティ〟の広場に待たされたままだった。
目の前には国立劇場の建物が聳え立ち、入口横の看板には、近々上演される演目の『蒸汽よ永遠なれ!』のポスターが大々的に貼られている。
劇場の屋根には──蒸汽映画、と呼ぶのだそうだ──白い蒸汽の幕に、以前、上演された演目のダイジェストが立体的に映し出されている。主演は皇女エミリーで、堂々とした立ち居振る舞いは、初見のタバサの目を釘付けにするほどの艶やかさが横溢していた。
タバサは所在なさに、広場を行ったり来たり、或いは劇場前の大階段に座り込んだりして、二郎の帰りを待った。
このまま、どこかへ姿をくらまそうか、とも思ったりした。
だが、やはり初めての仮想現実に一人だけ取り残されている心細い気持ちは、「ここで待っていろよ」という二郎の命令を守る気持ちのほうが大きいようだ。
それにしても、どこまで行ったのかしら……。
階段に座り込み、膝で肘を支えるような姿勢になって、タバサは突き出した顎を手の平で押さえている。もうすぐ、夕刻近い。
空はまだ青さが残っていたが、地平線近くにはオレンジ色が忍び寄っていた。劇場の正面は〝王宮〟であり、様々なレリーフや象嵌に飾られた建物には、深い影ができている。
なぜか〝王宮〟の様子が慌しい。