警告
二郎は、肩を竦めた。
「今日は盗賊の用事で、のこのこ出張ってきたわけじゃないんでね。忠告するために、わざわざやってきた、というわけさ」
「忠告?」
首相は不機嫌な口調になった。その口調に、電脳盗賊に対する首相の気持ちが顕わになる。
「なにが忠告だ! 盗賊の癖に……」
「あんたら、近々、国立劇場で公演をするんだろう?」
首相の言葉に取り合わず、二郎は本題を、ずばりと切り出した。窓際に近づき、手にしたステッキの先を示す。
指し示した先には【シティ】の大広場に聳える、国立劇場の建物があった。ステッキの先をちらりと見て、首相は答えた。
「そうだが、それが、何か?」
「国立劇場の空間が不安定になっている。知っていたかね?」
「何だと?」
ぴょん、と二郎の側に浮かんでいた金属球が飛び出した。きんきんと甲高い声で、首相とエミリーに話しかける。
「【ロスト・ワールド】の一部が、あの国立劇場に出現しようとしています! もし、公演中にそんな状況になったら、大変な事態が起きますよ!」
「【ロスト・ワールド】!」
首相は愕然と呟いた。
「なぜ、そんなことが判るの?」
それまで黙っていたエミリー皇女が、口を挟んだ。表情には、押し殺した怒りが差し上っている。
二郎は浮かんでいる金属球を指さした。
「そいつは、おれの相棒で、ティンカーって言ってね、仮想空間の様々な徴候を感じとる能力がある。そいつの予言することは、信用したほうがいいぜ」
エミリーは猛然と、二郎に向けて言葉を投げかける。
「公演を中止しろ、と仰るの?」
二郎は頷いた。
「できればね」
エミリーは、たん、と足踏みをする。
「厭です! この公演は、わが【蒸汽帝国】十周年の記念すべき行事です! 断じて、中止することはできません!」
首相が「皇女さま……」と、心配そうな声を掛ける。