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電脳ロスト・ワールド  作者: 万卜人
蒸汽帝国
28/198

闖入者

「その公演は、中止したほうがいいな」


 不意に聞こえた若い男の声に、ターク首相と、エミリー皇女は、ぎくりと立ち竦んだ。


「誰だ!」

 厳しい声で誰何すると、いつの間にか執務室の隅に、一人の男が立っていた。すぐ側には真鍮製の金属球が、ふわふわ宙に浮いている。


 男は茶色の落ち着いたスーツを身につけ、手にはステッキを持っていた。目深に被った山高帽の下から、鋭い視線を二人に当てている。山高帽に付いている紋章を一目ちらっと見て、ターク首相は声を上げた。


「その紋章! おぬし、電脳盗賊か?」

「御明察……。客家二郎と申す、駆け出しの電脳盗賊でござい。以後、お見知りおきを!」


 首相の時代がかった口調に影響され、客家二郎も、やや芝居じみた返答になる。それが可笑しかったのか、二郎は、にやり、と笑い顔を浮かべた。


 首相は、きょときょとと落ち着きなく、執務室を見渡した。


「なぜ電脳盗賊が、こんなところに出没する? おぬしらは、ギルドに登録されたお宝だけを狙うのではないか? ここには、盗賊ギルドに登録されたお宝など一切ないぞ」


 様々な〝世界〟は盗賊ギルドと契約し、その〝世界〟特有のお宝を用意する。当然、厳重な警備をするが、ギルドに所属する盗賊は契約されたお宝しか狙わない規約になっている。


 盗賊に狙われたお宝がある、ということになれば、物見高いプレイヤーが押しかける。また盗賊にまんまと盗まれても、お宝は別の〝世界〟に持ち込まれ、再び別の盗賊に狙われることによって、話題を作る。


 盗賊はお宝を売りさばき、仮想現実通貨の〝ハビタット〟を手にする。お宝を盗まれたことにより、〝世界〟もまた話題を集める。


 また、お宝も、様々な〝世界〟を渡り歩くことにより、特有の〝物語〟が付与される。

 長年、様々な盗賊に狙われたお宝のいくつかは、それにまつわるストーリーによって有名なものもあった。その結果、皆、得をするというわけだ。


 これは、プレイヤーを引き付けるための、巧妙な仕組みであった。

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