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電脳ロスト・ワールド  作者: 万卜人
蒸汽帝国
25/198

蒸汽の驚異

 蒸汽帝国!


 ここは、総てが蒸汽に満ち溢れた帝国である。


 鉄道、汽船はもとより、蒸汽で動く乗合馬車、洗濯機、タイプライター、パイプ・オルガン、それに、今しがた見たような、蒸汽映写装置。


 組み石造りの路面に、煉瓦の高層住宅、屋根は急勾配を見せる切妻屋根で、そこには逞しい蒸汽を噴き上げる排気管、煙突がにょきにょきと立ち上り、壁面には各家庭に大量の蒸気を供給するため、太いダクトが蜘蛛の巣のように張り巡らされている。


 ごおおん……。と、陰々とした轟音を響かせ、上空を蒸汽飛行船がゆったりと舞っている。その間を、軽蒸汽飛行艇が、燕のようにひらひらと旋回し、見上げる市民に向かってパイロットが翼を振って挨拶している。


 人々は、小型の手に持てるほどの小さな蒸汽エンジンを愛用している。


 これは自転車に組み込むこともできるし、娯楽のための受像機に繋げば、いついかなる時も、演劇や詩の朗読などを楽しむことができるのだ。人と連絡を取りたいときは、携帯蒸汽電話という通話装置もあった。


 とにかく、総てが蒸汽! 蒸汽であった。


 帝国の中心は単に〝シティ〟とのみ呼ばれている。シティと言えば、他にはこのような都市は存在しない。シティの中心にあるのは〝王宮パレス〟である。


 厳しいゴシック建築の王宮は、常に近衛兵が目を光らせ、毎日、午後になると、衛兵の交代が荘重に行われ、市民はそれを見るために集まるほどだ。


 衛兵は青い肋骨服に、白いズボン。ズボンの脇には赤いラインが走り、頭には高々とした帽子を目深に被り、天辺からは一メートルもありそうな羽根飾りが揺れている。その衛兵が交代するときは、手足をぴんと伸ばして、ぎくしゃくと行進するのが見物である。


 全体に、この【蒸汽帝国】は、十九世紀末の英国をモデルに作られている。


 ただし実際の英国にあった暗い面──阿片窟とか、ディケンズの小説にあるような孤児院──は省かれている。当然、貧民街などは存在しない。ここで暮らす人々は、上流階級の優雅さと、平民の自由を満喫していた。


 この【蒸汽帝国】が〝世界〟に存在するようになって十年!


 ほとんどの新〝世界〟が産声を上げても、数年以内、酷いときには一月も保たずに消滅していくのに対し、この〝世界〟だけは、多くのプレイヤーを引き付け、益々拡大を続けている。


 エミリー皇女が即位してから、さらに【蒸汽帝国】は多くのプレイヤーの賛同を得、今や絶頂期を迎えようとしていた。

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