布告
濛々とした蒸汽が一面に噴き上がり、白煙の中に朧に人の顔が浮かんだ。
年齢は二十歳前後と思える、若い女性である。
卵形の顔に、なだらかな曲線を見せる頤。髪の毛はやや亜麻色がかった金髪で、くるくるとカールがかかって、数本が額から垂れている。
目の色は、深い澄んだ青。身に着けているのは緑色の絹のドレスで、襟元には細かな刺繍のレースが飾られ、額にはきらきらと輝くティアラが載せられている。小さめの耳朶には、ドレスと色を合わせたエメラルドの宝石が、身動きするたび、柔らかな輝きを放っている。
柔らかな唇の両端がぎゅっと持ち上がり、女性は微笑を浮かべた。
「皆さん! わが【蒸汽帝国】は、設立十周年を迎えました! この記念日に、わたくしエミリー皇女は、ミュージカルを開催いたします!」
この言葉に、どーっと歓声が上がる。蒸汽の幕に映し出された皇女を見上げる人々の顔は、みな期待に溢れ、次にエミリー皇女が口にする言葉を待ち受けている。
人々の服装は、どれもクラシックな十九世紀末英国の衣装で、男性はほとんど山高帽か、シルク・ハットを被り、女性は大きく膨らんだ足下まで届くスカートを穿いている。
皇女は、類い稀なほど形のいい唇を開き、言葉を続けた。
「演目は〝蒸汽よ永遠なれ!〟です! 皆さん、お楽しみに……」
わあわあと上がる拍手と歓声の中、エミリー皇女は軽く頭を下げ、手を振って消えていった。蒸汽の噴出が止まり、人々は今しがた耳にしたばかりの報せを、口々に興奮して言い合った。