通貨単位
さっさと通過する二郎に小走りに近づき、タバサは話し掛けた。
「さっきの百二十〝ハビタット〟って、何のこと?」
二郎はちょっと呆れてタバサを見た。二郎の顔色を見て、またタバサの顔が赤くなる。
「な、何よ! 知らないから質問したんじゃないの!」
仕方なく、二郎は説明した。
「〝ハビタット〟というのは、仮想現実での通貨だよ。お金だ。仮想現実接続装置の説明書にあったはずだが、読んでいないのか?」
タバサの視線がぐるりと円を描く。唇を軽く噛み、首を捻った。
「さあ……」
「しょうがないな」と二郎は呟き、歩きながら説明を加えた。
「〝ハビタット〟とは、縄張り、とか棲息範囲とか訳されている。
つまり人間で言えば、個人の生活範囲だ。
仮想現実装置を所有すると、同時に一定の個人が自由に使用できる空間が与えられる。それを使って〝世界〟を構築してもいいし、今のように他の〝世界〟を利用して自分の空間から一定の範囲を譲り渡すこともできる。
こうして〝世界〟はプレイヤーにサービスを提供して、その見返りに〝世界〟を成長させるんだ。
だから【蒸汽帝国】のように多数のプレイヤーを引き付ける〝世界〟は、どんどん拡大する。
反対に、誰も立ち寄らない〝世界〟は自分の〝ハビタット〟を消費するだけだから、縮小して、遂には消滅する」