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電脳ロスト・ワールド  作者: 万卜人
二人の創造主
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叫び

 しばし思案して、にやりと笑う。


 さっと手を振ると、空中に巨大な岩が浮かんだ。何の支えもなく、確固たる存在感を発している。さらに、岩の上面には、ヨーロッパ風の城が建てられている。男の目指したのは、ルネ・マグリットの絵画の再現であった。エッシャー、キリコ、サルバドーレ・ダリなどの超現実派の絵画が、次々と立体になって出現する。


 が、男の創造は遊びであったようだ。ごちゃごちゃとそれらの創造物が混乱した風景を作り出すと、男はそれらをただ一振りの手の動きで、あっさり消去する。肩を竦め、やり直す。

 男の瞳に、熱中が浮かぶ。世界は奇妙な様相を表し始めた。


 それまで当たり前に存在した自然が、金属的な鋭角な線を作り出した。緑滴る森の代わりに、きらきらとした結晶のような固まりが突き出し、大地から斜めに金属の丘が盛り上がる。青空は血のような真紅に変化し、どろりとした緑色の雲が流れた。

 ほっと男は息を吐き出した。両肩から力が抜け、悠然と自分が作り出した世界を眺め渡す。まるで悪夢が現出したような光景に、男はにやにや笑いを浮かべている。


 まだ、何か足りない……。


 男の手が動き、生命が現れた。この世界に相応しい、奇妙な生き物である。

 ごろごろと転がる岩の塊が、その一つだ。

 群体で動くのか、いくつもの大小無数の岩が、何かの意思に操られているように、坂を重力を無視して駆け上がり、跳ね上がる。


 逆に、粘液のような生物も存在した。鋭角の金属の丘にへばりつき、刃物のような鋭い稜線に、ぷちぷちと途切れる。だが、また、ぐねぐねと集まり、元の形を取り戻す。


 空には、十字型のプロペラのような飛行物体が、目まぐるしく旋回して浮かんでいる。これは、この世界の鳥のようだ。


 男の瞳に狂的な光が湛えられる。

「どうだ! こんな世界は、ここだけだろう……。おれだけの世界……!」

 満足したのか、男は唐突に顔を上げる。目を閉じ、何かを待ち受ける。


 と、男の顔に狼狽が浮かぶ。


 きょときょとと、何度も辺りを見回す。

「まさか……」

 驚愕の表情が浮かぶ。

 もう一度、呟いた。


「まさか……そんなことって!」


 がっしりと両腕で胸を抱きしめた。がたがたと身体が震えていた。

「嘘だ──!」


 叫びは、世界全体に響いていた。

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