初心者
【大中央駅】に、一人の新しい旅人がリンクして出現した。
いかにも初心者らしく、周りのプレイヤーにぶつからないよう、覚束ない足取りで辺りをきょろきょろと見回していた。身軽な皮の上下、灰色のシャツに、羽飾りのついた帽子を被っている。耳が尖がり、目は菫色をした、エルフの装束だ。
「あんた、初心者ね!」
出し抜けに声を掛けられ、旅人は顔を真っ赤に染めた。見ると、一人の女性プレイヤーが、にこにこと笑みを浮かべ立っている。
丸まっちい身体つき。身長はせいぜい百五十五~六㎝といったところか。肉付きのいい腕と太腿が、軽装の着衣から弾けそうに覗いている。女性プレイヤーは、腕を上げ、握手を求めてくる。旅人は、思わず手を握り返した。
が、二人の掌は、するりと空中ですり抜ける。
女性プレイヤーは、甲高い声で笑った。
「いっけなあい! ここでは、物理衝突計算は、一切ないんだっけ! 握手なんか、できるわけ、ないのにね!」
朗らかな笑い声に、エルフの旅人は呆気に取られる。
女性プレイヤーは、真面目な顔に戻り、口を開いた。
「あたし、仮想現実ではタバサって名前で通っているの! あんたみたいな初心者の案内するのが、あたしたちの役目。どう、あたしたちの案内で仮想現実を冒険してみない?」
「あ、案内……ですか?」
ようやく旅人は、声を発することができるようになった。
「そうさ、おれたちが手ほどきすれば、すぐあんたもベテランだ」
どこから現れたのか、新手のプレイヤーが声を掛けてきた。こっちは顔の半分が真っ黒、もう半分は普通の顔色の、奇妙奇天烈な格好のプレイヤーである。
「おれは、影二郎。もとは客家二郎、シャドウという名前で通っていたが、今では影二郎という名前にしている。よろしくな」
立て続けに喋り捲られ、新来の旅人は圧倒されていた。影二郎と名乗ったプレイヤーのポケットから、金属の球体がぽん、と飛び出してくる。球体は宙に浮かぶと、きんきん声で話し掛けてきた。
「わたくし、影二郎さまの助手を勤めますティンカーと申します。よろしく!」
旅人はごくりと唾を飲み込む。
「あ、あのう、どうして僕を案内してくれるんですか? 見返りは?」
タバサと影二郎は顔を見合わせる。タバサは「にっ」と笑うと、影二郎に話し掛けた。
「この人、馬鹿じゃなさそうね。ぼけっと、油断していないもの」
「ああ。頭は回るな。いい、プレイヤーになりそうだ!」
タバサが旅人に顔を向け、話し掛ける。
「見返りは貰うわよ。ただし、あんたの同意の上でね! 欲しいのは、あんたの〝ハビタット〟!」
「僕の……? 僕の〝ハビタット〟を、どのくらい要求するつもりですか?」
影二郎が一歩、前へ踏み出す。ぎらりと、両目が鋭く光った。
「全部だ! あんたが仮想現実に接続するための全て、貰いたい!」