馬鹿な考え?
「あれのせいなんだ」
「あれ? 宇宙ロケットが?」
「そう……。おれの子供のころ、宇宙開発は暗礁に乗り上げていた。知っているかい? 二十世紀の後半、人類は月へ到着したんだ」
「知らない。本当のことなの?」
「本当のことさ! 教科書にも載っている事実だ!」
二郎の口調に熱意がこもった。
「月に行けるのなら、火星にだって行けるはずだ。さらに遠くの惑星、もしかしたら、別の恒星系にだって行けるかもしれない。だけど、おれの子供のころには宇宙開発はほとんど行われなくなっていた。おれの父親は、誰もが宇宙へ行ける未来を夢見ていたと言っていた。しかし現実は、そうならなかった。とにかく、やたら費用が掛かりすぎるんだ。宇宙ロケットには。何しろ人間三人を月へ送り込むのに、五十階建てのビル一つまるまる燃料に費やすくらいだからな。おれは宇宙へ行ける未来を手に入れ損ねた。だから【パンドラ】を開発したんだ」
洋子は首を捻った。
「よく判らないわ」
「【パンドラ】を使えば、無限の〝世界〟を創造することができる。それは、他の宇宙への旅と同じ意味を持つんだ! しかし、おれの作り上げたのは【ロスト・ワールド】だった」
二郎は空を見上げている。ロケットは、すで見えなくなっていた。
「畜生、もう少しあのロケット開発が速く進んでいたらなあ! おれだって一生懸命に努力して、宇宙パイロットを目指していたかもしれないのに」
洋子はじっと二郎の横顔を見詰めた。
「あんた、今でも宇宙へ行きたいの?」
「当たり前さ!」
二郎は洋子に顔を向け、叫んでいた。洋子はふと思いついた考えを口にしていた。
「それじゃあ、宇宙そのものを仮想現実で作っちゃったらどうなの?」
がくり、と二郎の顎が垂れ下がる。両目がまん丸になり、心底、驚いた表情を作る。
タバサの顔に血が昇った。
「御免! あたし、また馬鹿なこと……」
「いいや!」
二郎の顔に笑顔が戻った。
「いいや、そりゃ、馬鹿な考えじゃないかもしれないぞ! 宇宙を丸ごと、仮想現実で作り上げる……。面白いかも……」
二郎は「けけけっ!」と奇妙な笑い声を上げていた。