迷い
洋子は空を見上げ、上昇していく円盤を見詰めて口を開く。
「あんたがここを指定したから来たけど、あれは何なの?」
「やれやれ」と二郎は呟いた。
ああ、確かに客家二郎である、と洋子は思った。口調がそっくりだ!
「レーザー・パルス推進の宇宙船だよ。ここは宇宙船の発射基地だ。今回、初めての実用試験があると聞きつけ、折角だから、ここを指定したんだ。どうだ、凄いだろう?」
「ふうん」と洋子は、気のない返事をする。
正直、さっぱり判らない。どこが凄い、というのか?
「つまりなあ」と二郎は説明口調になった。
「レーザー・パルス推進とは、レーザーの焦点を集中することで熱を生み、それを推進力に変える宇宙ロケットなんだ。地上にエンジンと、燃料を置いて、本体を上昇させるから、搭載量が格段に違う。次世代の宇宙ロケットなんだよ」
「そうなの」
ともかく、相槌を打つに限る。
洋子は、二郎と現実世界で顔を合わせることを希望した。二郎は最初は躊躇したが、結局、洋子が押し切った。
あれから、洋子は仮想現実に接続することを迷っていた。自分のしでかしたことを考えると、どえらい大騒ぎに巻き込まれ、仮想現実世界そのものを揺るがすことになったのである。怖れを感じて当然だった。迷いを断ち切るためには、二郎と直接、面と向かって会って、話をしたいと思ったのである。直に会って、二郎に尋ねたい疑問点があったのだ。
「ねえ、二郎……さん?」
「二郎で良いよ」
二郎は苦笑した。洋子は思い切って話し始めた。
「あたし、一つ聞きたかったことがあるの」
「何を?」
「あんたが、どうして【パンドラ】なんてものを開発しようとしたか、ってこと!」
二郎は黙り込み、ゆっくりと手摺に近づくと、上体を凭れかけさせた。空を見上げ、レーザー・パルス推進の宇宙ロケットを見上げる。
洋子も釣られて見上げる。