表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
電脳ロスト・ワールド  作者: 万卜人
もう一つの旅立ち
194/198

再会

 田端洋子は無人の電動バスを降り、目の前の建物の入口へと向かった。


 現実世界の至るところで進んでいる荒廃は、ここでは一切どこにも見当たらない。

 建物の壁は塗りたての新品のように艶やかで、白く陽光を反射しているし、ずらりと並んだ窓ガラスは、一枚残らず綺麗に磨き上げられ、鏡のように外の景色を映し出している。


 入口を通り抜け、エスカレーターで屋上へと上がる。屋上には、数十人の見物客が、期待を込めた眼差しで、目の前のだだっ広い滑走路を見詰めている。双眼鏡を持参している者も見受けられる。


 滑走路の真ん中を、どでかい円盤型の機体が占領していた。円盤の下部からは、時折もうもうと、蒸汽のような白い煙が上がっている。洋子は【蒸汽帝国】を思い出す。


 陰々としたサイレンが聞こえてくる。


「上がるぞ……!」


 一人が呟いた。見物人は、どどっと屋上の手摺に近寄り、一瞬たりとも見逃さぬよう目を皿のように凝らしている。


 円盤の下半分から上がる煙が、さらに強まる。煙の向こうに、白く輝く光が覗く。


 ゆらり──、と円盤は上昇を開始した。上昇していった円盤の滑走路面には、幾つもの奇妙な筒が上を見上げ、筒先は白く輝いている。筒先は明らかに円盤を追っている。上昇する円盤の角度に合わせ、筒先は一斉に上を見上げていく。


 すごい!

 初めて見る光景に、洋子は息を呑んでいた。


 ぽん、と肩を叩かれ、振り向くと、一人の痩せた中年の男が立っていた。


 皮肉たっぷりの笑みを浮かべ、白髪交じりの頭髪をした男は、白黒だんだらの、チェッカー柄のジャンパーを身につけている。


 洋子は用心深く、声を掛ける。


「あんた、客家二郎……よね?」


 男の笑みが開けっぴろげなものになった。

「そうさ。君はタバサだろ?」


 洋子は頷く。しかし、すぐ首を振った。


「そう……、でも、あたしの本名は田端洋子というの。今はタバサじゃなく、洋子」

「そうか」と、男は肩を竦めた。


 洋子は男の顔を観察する。年齢は見当がつきにくいが、四十前後。疲れ切った顔つきであるが、目の奥に客家二郎の「何でもお見通しだぞ」と言いたげな、表情を認めていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ