再会
田端洋子は無人の電動バスを降り、目の前の建物の入口へと向かった。
現実世界の至るところで進んでいる荒廃は、ここでは一切どこにも見当たらない。
建物の壁は塗りたての新品のように艶やかで、白く陽光を反射しているし、ずらりと並んだ窓ガラスは、一枚残らず綺麗に磨き上げられ、鏡のように外の景色を映し出している。
入口を通り抜け、エスカレーターで屋上へと上がる。屋上には、数十人の見物客が、期待を込めた眼差しで、目の前のだだっ広い滑走路を見詰めている。双眼鏡を持参している者も見受けられる。
滑走路の真ん中を、どでかい円盤型の機体が占領していた。円盤の下部からは、時折もうもうと、蒸汽のような白い煙が上がっている。洋子は【蒸汽帝国】を思い出す。
陰々としたサイレンが聞こえてくる。
「上がるぞ……!」
一人が呟いた。見物人は、どどっと屋上の手摺に近寄り、一瞬たりとも見逃さぬよう目を皿のように凝らしている。
円盤の下半分から上がる煙が、さらに強まる。煙の向こうに、白く輝く光が覗く。
ゆらり──、と円盤は上昇を開始した。上昇していった円盤の滑走路面には、幾つもの奇妙な筒が上を見上げ、筒先は白く輝いている。筒先は明らかに円盤を追っている。上昇する円盤の角度に合わせ、筒先は一斉に上を見上げていく。
すごい!
初めて見る光景に、洋子は息を呑んでいた。
ぽん、と肩を叩かれ、振り向くと、一人の痩せた中年の男が立っていた。
皮肉たっぷりの笑みを浮かべ、白髪交じりの頭髪をした男は、白黒だんだらの、チェッカー柄のジャンパーを身につけている。
洋子は用心深く、声を掛ける。
「あんた、客家二郎……よね?」
男の笑みが開けっぴろげなものになった。
「そうさ。君はタバサだろ?」
洋子は頷く。しかし、すぐ首を振った。
「そう……、でも、あたしの本名は田端洋子というの。今はタバサじゃなく、洋子」
「そうか」と、男は肩を竦めた。
洋子は男の顔を観察する。年齢は見当がつきにくいが、四十前後。疲れ切った顔つきであるが、目の奥に客家二郎の「何でもお見通しだぞ」と言いたげな、表情を認めていた。