言葉
二郎が喋っている間に【裁定者】は一つ頷くと、ゆっくりと膝をついて、大きな顔を近々と寄せてくる。
唇が開き、声が発せられた。
「お前たちが、この騒ぎの原因だな? ふむ、どちらも同じプレイヤーで、一人は〝ロスト〟した分身であるな。まったく迷惑至極なことではあるが、仮想現実の平和のためには余が乗り出すしかない」
シャドウは反抗的な目付きで【裁定者】を見上げていた。
「何を偉そうに……。それじゃ、おれが〝ロスト〟したときはどうなんだ。あの時、どうしてお前は乗り出さなかった? おれ一人、どうなっても構わないというのか?」
巨人は、ゆっくりと頷く。
「そうだ。個々人の不注意は、プレイヤー各々の責任として背負わなければならぬ重荷である。が、仮想現実の全領域に影響する今回のような場合は、余が乗り出すべきなのだ。さて、今回の騒ぎの原因は、そこの客家二郎および分身であるシャドウにある。余は、一大方便を使って、お前たちのお互いに対する憎しみを解決してやろう……」
【裁定者】の目が光り輝いた。
光に貫かれ、二郎とシャドウは身動きができなくなった。
【裁定者】の口が大きく開かれ、ある言葉が発せられた。
「色即是空、空即是色!」
光は物理的な圧力を持って、その場にいた全員を打ちのめす。タバサも、ゲルダも、三兄弟も、更には蒸汽軍全員も、床にひれ伏し気が遠くなるのを感じていた。