ハビタット
【蒸汽帝国】の〝門〟は、厳しい大金庫の扉のようなデザインであった。
どっしりとした鉄の板に、無数のボルトが埋め込まれ、巨大な鉄輪の取っ手がついている。
タバサは、思わず、といった感じで尻込みする。それを見て、二郎は軽く笑った。
「どうした? ここが【蒸汽帝国】の〝門〟だぞ。心配するな、中に入っても、閉じ込められる心配はない」
「な、何もそんなこと、心配していないわよ。ただ、ちょっと驚いただけだわ」
二郎に内心をずばり言い当てられ、悔しいのだろう。タバサの顔は、真っ赤になっていた。
二郎は一歩、すっと〝門〟に近づき、無造作に鉄輪を握る。ぐい、と捻ると、呆気なく鉄輪はぐるりと回転し、音もなく扉は開いていく。
内部に踏み込むと、そこは十九世紀末の、鉄道の駅舎風になっていた。
かっちりとした帽子を被った駅員が一人、立っている。年齢四十代半ばと思われる、中年の男性である。
目尻に柔和な笑い皺が刻まれ、駅員は愛想のいい笑顔を二人に向けた。
「ようこそ! ここからが【蒸汽帝国】になっております! 切符をお買い求め下さいますか?」
「切符?」
タバサは不審そうに二郎に尋ねる。二郎は頷いた。
「【蒸汽帝国】の首都に行くには、鉄道を利用しなくてはならないんだ」
二郎は駅員に向かい指を二本立てて見せた。二人分、という意思表示である。駅員は上機嫌に頷いて見せた。
「百二十〝ハビタット〟になります」
二郎は無言で頷く。駅員は二枚の切符を渡した。