悔恨
ぎしぎしぎし……。奇妙な軋み音に二郎はさっと周りを見渡した。
何が起きている?
音の正体を見て取り、二郎は驚きに身を強張らせる。
シャドウの居城を構成する──いや、【パンドラ】プログラム本体だ──のブロックが、動き出しているのだ。大小無数のブロックが動き出し、壁から迫り出している。
シャドウは二郎の驚きを楽しむように、邪悪な笑みを浮かべていた。
「どうだ! おれの【パンドラ】プログラムは、お前のバージョンに比べ、着実に進化している。この十年、おれは【パンドラ】の改造に取り組んできたんだ。この瞬間を待ち続けてな!」
二郎はシャドウに対し、穏やかといっていい口調で話し掛けた。
「何を狙って改造したんだ? お前が【パンドラ】に加えた変更とは?」
シャドウは吠えた。
「全ての〝世界〟を【ロスト・ワールド】に変更するプログラムだよ! 【蒸汽帝国】から【大中央駅】に繋がった〝門〟を通じて【ロスト・ワールド】のプログラムが書き換えを加えるんだ! さあ、始まるぞ」
ひゅん、ひゅんと音を立て、空中に飛び出したブロックは、一斉に〝門〟を目指していく。〝門〟の先の暗黒にブロックは次々と飛び込み、消えていった。
飛び込むとき、一瞬だが、暗黒の中に目映い光が閃く。光が閃くたび、二郎の体内に奇妙な衝動が貫く。
「どうだ、感じるだろう? おれの【パンドラ】プログラムが、全〝世界〟を乗っ取っているんだ。仮想現実は、おれのものだ!」
シャドウは、うっとりと天井を見上げた。
「全〝世界〟の支配者、シャドウの誕生だ。おれは皇帝に即位してやる!」
真っ赤な大口を開け、シャドウは高笑いを上げた。二郎は無言でシャドウを見詰めている。二郎の胸に、悔恨が酸性の毒のように育っていった。
すべては無駄だった……。