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電脳ロスト・ワールド  作者: 万卜人
掟破りの解決
188/198

【裁定者】

 やがて群衆の動きは【大中央駅】中心に向かう流れとなっていた。


【大中央駅】の中心に、一個の巨大な塑像が聳えていた。

 ゆったりとしたローブを纏った、三面六臂の神の坐像であった。正面に優しげな表情の仏陀の顔。右にはリンカーン、左にはマホメットの顔を象っている。


 塑像は、仮想現実を監視する【裁定者】の坐像であるとされる。どっしりとした身体つき、厳しい顔は半眼を閉じ、長い白髪を背中に垂らした姿は、言い知れぬ威厳を感じさせる。顔には髭はなく、ゆったりとしたローブ姿は男性、女性どちらとも見える。


 仮想現実世界では、プレイヤーの安全を守るため様々な制限が加えられている。苦痛をカットする倫理規定もそうであるし、差別語を発音できないことや、七十二時間の制限時間も、その一つだ。仮想現実世界の全てを監視する【裁定者】も、安全装置の一つである。とはいえ、【裁定者】は唯の一度たりとも、実際に作動したことはないとされている。今、プレイヤーたちは最後の希望を込め、【裁定者】の坐像を見上げていた。


 一人、また一人と【裁定者】の坐像の膝もとに集まり出し、無意識であろうが、両手を合わせ、祈りのポーズをとる。やがて、ゆっくりと喧騒は静まっていった。プレイヤーは続々と【裁定者】のもとに吸い寄せられる。


「【裁定者】さま……どうか、お救いを!」


 一人が声を上げる。声を上げたことが切っ掛けとなり、全てのプレイヤーも同じように呟きながら、祈りのポーズを取った。


 どのくらいの時間が経ったのだろう。


 ふと見上げたプレイヤーたちは、驚きに声を上げていた。


「見ろ! あれを!」


 指さす。


 指先は【裁定者】の顔に向かっていた。【裁定者】の両目が開いていた。半眼に閉じていた両目が、くわっと見開かれ、両の瞳は金色こんじきに輝いている。


 ゆらり……、と【裁定者】の巨体が揺らめいた。ゆっくりと、実にゆっくりと【裁定者】は立ち上がり始めた。仮想現実の歴史上、初めて【裁定者】が動き始めたのである。

 三面ある【裁定者】の三つの唇が開かれ、ある音声が発せられた。痺れるような音声は、その場にいた全てのプレイヤーに、じーん、と染み入った。


「天上天下、唯我独尊!」「人民の人民による……」「アッラー・アクバール(アラーは偉大なり)!」


【裁定者】は叫び終わると、ゆっくりと足を挙げ、第一歩を踏み出した。

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