敗北
びしっ! と厭な音がして、がらんとゲルダの握っていた青竜刀が床に転がった。
ゲルダは指を押さえ、苦痛に呻いていた。タバサのヌンチャクの先端が、ゲルダの親指を直撃していたのだ。剣道で言う「指きり」の技である。
顔を上げたゲルダの顔からは血の気が引き、真っ白になっている。顎からぽたぽたと汗が滴っていた。
仮想現実で感じる初めての苦痛!
【ロスト・ワールド】では、苦痛は本物だ。
すかさずタバサは爪先を蹴り上げ、ゲルダの取り落とした青竜刀を遠くへ蹴飛ばす。
がらがらと派手な音を立て、刀はくるくると旋回しながらゲルダの手が届かない遠くへ飛ばされていく。ゲルダの顔に絶望感が浮かぶ。
「修正ディスクを渡しなさい!」
ヌンチャクを構え、タバサが叫んだ。
ゲルダは物凄い視線で睨み返した。
「誰が……お前なんかに……!」
タバサは唇を噛みしめた。
どうしたら、いい?
何とか勝負には勝てたが、これから何をすれば良いのか、タバサには判らなかった。
ゲルダはシャドウの洗脳で、どうしようもない忠誠心に縛られている。ディスクを渡すことなど、考えもしないだろう。
しかしタバサには、無情にゲルダに対し、気絶するほどの苦痛を与えるなど、できそうにもない。
ゲルダは吠えていた。
「どうした? わたしを殺せばいい! そのヌンチャクを思い切り振り下ろせばいいだろう? できないのか、臆病者!」
ゲルダは、せせら笑った。
タバサは動くことができなかった。顔を上げ、戦っている二郎とシャドウを見上げる。タバサの視線を追い、ゲルダも顔を上げていた。