真相
「おれが?」
知里夫は自分の顔を指差す。
「そうだ! お前は、コンピューターのような暗算能力を得、タバサは一瞬で武道の達人に。他にもあるぞ。例えば、蝶人だ!」
「蝶人って、あの芋虫から蛹になる、あいつらのことか? あいつらが、どうして、お宝を受け取っているんだ」
玄之丞は目を細めた。
「そこが奇妙なところなのだ。【ロスト・ワールド】のお宝は、一見そうではなさそうに見えるところが面白い。知里夫、お宝と聞いて、何を連想する?」
「そりゃあ」
知里夫はグルグルと両目を動かす。
「例えば、金銀財宝、とか。骨董品とか、絵画とか……」
玄之丞は新しい葉巻を咥えると、ゆっくりと頭を振った。
「そんなものが仮想現実で宝になるか? どんな金銀財宝でも、骨董品でも、泰西名画だろうが、そんなものはデータに過ぎん。その気になれば、簡単にコピーできる。仮想現実でものを言うのは、何と言っても、プレイヤー個々人の能力そのものだ。見ろ、あの二人を」
玄之丞は戦っている二郎とシャドウを指さす。
二人は空中で浮かびながら、辺りの空間を歪め、決死の表情で戦いを続けている。
「二郎は仮想現実構築支援ソフト【パンドラ】の開発者として、他のプレイヤーにはない特殊能力を持っている。シャドウも二郎の分身だから、ここ【ロスト・ワールド】では無敵を誇る。エミリー皇女にしても、そうだ。エミリー皇女は【蒸汽帝国】全てのプレイヤーにとって、かけがえのない象徴だ。今、俺が上げた特異性は、他にはない! どんなお宝だって、引き換えにはできないだろう」
「それじゃ……」
知里夫の顔に理解の色が浮かんだ。
「あいつは、どうなんだ?」
知里夫は晴彦を指さしていた。