宝
その瞬間、蒸汽軍全員の凍りついた時間が解けた!
ぱっと口を開き、タークが叫んでいる。
「エミリー皇女!」
が、視線の先にエミリー皇女はいない。きょろきょろと辺りを見回すと、驚きに両目が、くわっと見開かれた。エミリー皇女は床に長々と横たわっている。気絶しているのだ!
「エミリー!」
顔中を口にして、タークは叫んでいた。だっとパチンコに弾かれたように飛び出し、脇目も振らず、倒れているエミリーに突進する。
床に膝まづくと、エミリー皇女を抱き起こす。荒々しく揺さぶり、大声を上げた。
「エミリー皇女、ご無事ですかっ!」
揺さぶられ、エミリー皇女はゆっくりと目を開いた。ぱちぱちと何度か瞬きを繰り返し、徐々に正気を取り戻す。唇が微かに動き、両目がしっかりと覗きこんでいるタークの心配そうな顔を捉えていた。
息を吐き出し、唇から言葉が押し出される。
「パ……パ……?」
タークは顔を真っ赤にさせ、怒鳴る。
「何ですと? 今、何と仰いました?」
「パパ……、あなたは、あたしのパパでしょう?」
「エミリー!」
しっかりとエミリー皇女を抱きしめ、タークは叫んでいた。
「ふむう……」
抱き合うエミリーとタークを見詰め、玄之丞は真剣な表情になっていた。やがて、理解の色が浮かび、晴れやかな笑みに変わる。
「判ったぞ!」
知里夫は玄之丞を見上げる。
「何が判ったんだ、兄貴」
玄之丞は腕を組み、重々しく呟いた。
「【ロスト・ワールド】の宝の正体がだよ」
「お宝ぁ?」
知里夫は頓狂な声を上げていた。
「そんなもの、ただの噂話に過ぎねえ、と思っていたぜ! 本当にあるのかい?」
「ある!」
断言していた。じっと知里夫を見て、言葉を足す。
「お前はもう、お宝を受け取っているじゃないか」