能力
「おい、兄貴。あのタバサって娘、すげえなあ! あんな芸当ができるなんて、知らなかったぜ!」
知里夫は仰天してタバサの仕出かしたことにあんぐり口を開け、玄之丞に話し掛けた。玄之丞はすぱすぱと、続けざまに葉巻を喫いながら答える。
「うむ。吾輩の考察するところ、ティンカーがやったプログラムの上書きとやらが、効果を発揮しているのかも知れんな!」
「ってえと、おれたちも、あんなことできるのかね?」
玄之丞は首を振った。
「それは判らん。タバサの場合は、即席で武術の達人に変身できたが、吾輩たちはどうなるのか? 知里夫、お前、何か感じないか?」
知里夫は首を捻った。
「判らねえ……。何も感じねえ……。ちょっと待て! 兄貴、何でも良いから数字を言ってくれ!」
玄之丞は口から葉巻を離し、妙な目つきで知里夫を見た。しかしすぐに立ち直ると、続けざまに数字を並べる。
「129665412×65894は?」
「854417658328!」
一瞬にして知里夫は答えていた。知里夫は情け無さそうに玄之丞を見やる。
「おれの場合は、暗算らしい。畜生、こんな能力、糞の役にも立たねえ!」
玄之丞は、ぽん、と知里夫の肩を叩く。その目が、晴彦に向けられる。
晴彦は相変わらずにこにこと、馬鹿か、それとも底なしの善人なのか判らない笑みを浮かべていた。知里夫も晴彦を睨み、考え込む。
「晴彦! お前……」
言いかけた知里夫を無視して、晴彦はにこにこと笑いを浮かべたまま、すーっと無言で歩き出す。
玄之丞と知里夫は顔を見合わせた。
とっとと晴彦は、かちんかちんに凍りついたように動きを止めたままの蒸汽軍兵士の前に歩いていく。
先頭に立っている、ガント元帥と、ターク首相の顔をまじまじと見つめると、何を思ったのか、さっと両腕を差し上げた。